九頭竜堂

サークル「九頭竜堂」のBlogです。 主に仲間内で遊んだTPRG(クトゥルフ・シノビガミ・サタスペ等)の話題や、ニコニコ動画でのリプレイ動画投稿、フリーシナリオの公開情報やコミックマーケットでの頒布物の情報をお知らせしています。

 皆さんこんにちは。つい先日無事内定を頂いたムオサム(@naoper1019)です。
 6月に入り、学部三年生の方はインターンシップへのエントリーが始まったり、四年生の方は就活がクライマックスだったり大変な思いをしてらっしゃると思います。
 特に学部四年生でまだ内定がない方は、このブログ記事の一行目を見て……

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 みたいになってしまっていると思います。
 大丈夫です。他のブログみたいに『私が内定をもらえたのはこうしたから❤』みたいな記事を書くつもりはありません。
 私はこの記事で……

資格複数持ち、専門職志望、学歴そこそこで、インターンシップにも積極的に参加していたにも関わらずいかにして就活に失敗したか

 ということをつらつらと書いていきます。

第一話 ムオサム、就活をみくびる


それはちょうど一年前の出来事だった……

 上記のツイートをした日が、私が就活を始めた日です。ざっと一年前ですね。
 就活をしたことがある方ならお分かりかと思いますが、学部三年生の5月中から本気で動き始めるのはかなり早く、我ながら意識の高い就活生だったと思います。
 私の志望業界、業種は専門性の高いもので、技術や資格さえ持っていればまず入れるタイプでした。
 私は前述の通り複数の資格持ちで、学歴もそこそこだったので、『まぁ余裕で受かるだろう』と余裕しゃくしゃくでエントリーシートや履歴書を書き進めていました。

崩壊の予兆

 自信満々で挑んだ通り、私はインターンシップの書類選考や実技試験等でつまずくことなく、全て通過することができました。
 これが終わりの始まりだったのです……
 私は一次選考をなんの苦労もなく超えてしまったせいで、「あぁ、就活って余裕じゃん」という最も危険な偏見を持ってしまいました。
 続々と通過した企業からインターンシップの詳細が送られてくる中、一部の企業から
『通過者多すぎたから二次選考の面接やるよ』
 という連絡が来ました。

初めての面接

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 私は完ッ全に就活をナメくさってしまったので、こんな感じのセリフを友人に吐きながら面接会場に向かっていきました。
 面接では細かく何を話したかは覚えていませんが、面接官が訊いてもいない自分の研究内容の話を四十分くらいした気がします。

受かるわけねぇ!

 まぁ、落ちますよね。
 受かる要素がないですもんそんな話しておいて。
 ただ、当時の私は落選通知をもらっても、

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 とはならず、むしろ面接官のことを
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私の価値を理解できなかった馬鹿面接官 だと判断していました。
 参考までに言っておきますと、この時面接した複数の企業は全部私を落選させました。
 ちなみにその後、別の面接官に訊かれてもいないシシリアン・ディフェンスの素晴らしさやジェンダー論と一人称のこじれた関係性等を話したような気がします。
 言うまでもないですが、馬鹿は私です。

就職先決定!?

 後に、私に面接を行わず、書類だけで私のことを判断してしまった多くの迂闊な企業のインターンシップが始まりました。
 いざ研修を行ってみると、技術だけは自信がある典型的な社会性が死んだオタクなので、他の参加者に比べてかなりいい結果を残すことができていました。
 しかも、参加した企業の社長から個人的に飲みに誘われるという偉業を成し遂げます。
 もうアレです。

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 って感じでした。
 完全に『この企業からの内定は取ったな』という気分で、飲み会の最中社長が訊いてもいない自分のフィールドワーク先の話を一時間くらいした気がします。

パターンが見えてきましたね?

 はい。私の就活失敗の本質はここにあります。
 ですが、今後この症状が更に悪化し、書類選考、適性検査、実技試験無敗にも関わらず面接を受けた41社から不採用通知をいただくというビクトリー伝説を打ち立てることになります。

 次回、「第二話 ムオサム、悪循環に落ちる」
 ご期待下さい!

四畳半神話大系を見てました

最近、アニメの”四畳半神話大系”を見直してました。
四畳半神話大系は森見登美彦の同名の小説を原作とするアニメーション作品です。
森見さんの小説のほとんどに共通しますが、京都を舞台にして非常に独特な作風を組み込んだ不思議な作品です。

四畳半神話大系

今回は四畳半神話大系のアニメ最終話に出てきた「ある表現」をキーにして、物語やゲームの中の視点についての話をしていこうと思います。
ちなみに、今回のブログは四畳半神話大系のネタバレを含んでいます。
読むにあたってご注意ください。


四畳半神話大系ってどんな話

以下、作品の概要(アニメ版のHPの第1話から抜粋)

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大学三回生の「私」は、薔薇色のキャンパスライフを夢見ながらも無意義な2年間を過ごしてきた。入学した時に数あるサークルの中からテニスサークルを選ぶが、会話も出来ずに居場所を失くしていく。そこで同じ様な境遇の小津と出会い、サークル内外で人の恋路を邪魔をする「黒いキューピット」の悪名を轟かせることに。 小津と出会わなければ黒髪の乙女と薔薇色の人生を送っていたに違いない! もしあの時違うサークルを選んでいたならば……。

つまりどういうことだってばよ…?


三行でたのむ

  • 主人公は非リア
  • 大学入学から今日までの自身の選択に悩む
  • 時間が巻き戻り、別の選択を選んでいた世界が描かれるがそこでも非リア

アニメ版最終話の「ある表現」

今回取り上げるのは最終話のラストの1コマ。

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俺なりの愛だ

どういうシーンなのか

    前提として、以下のような状況が存在します。

    物語の終盤にループ空間に閉じ込められる主人公。
    自分以外誰もいない世界、その孤独につぶれかけていたときに悪友「小津」のことを思い出す。
    すべての平行世界で自身のリア充化を全力で邪魔してきた最悪の悪友が、自身にとって最高の友であったことに気づく。

    その後、ループから脱することに成功して小津と再会。
    小津はこれまでと打って変わって、自身に対して親切な主人公を見て薄気味悪さを示します
    「どうして、自分に優しいのか」と問う小津に対して、主人公は「俺なりの愛だ」と答えて物語は終わるのです。

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    この主人公の顔がどのような意味を持つのか、更にみていきましょう。

    小津という存在

    小津は主人公の悪友です。
    大学に入学してリア充を目指すはずだった主人公。
    小津は、すべての平行世界で主人公を非リアに落とす悪魔的な存在として描かれます。

    小津の姿は以下のような感じです。

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    物語の語り手である主人公からも、「妖怪」という表現を受ける出で立ちをしています。
    うーん、どこかでみたことがあるような…?

    小津にはもう1つバリエーションが存在します。
    それは、主人公がループ空間を脱出以降に描かれる姿です。
    そのときの小津の姿はこんな感じ。



    ん!? なんか色々違くないですか!?

    ご安心ください。どちらも正真正銘の小津です。

    なんで顔が全然違うの?

    結論からいうと、小津の姿が変わってしまった原因は「主人公の認識の変化」にあります。

    これまでの話にも出てきたように、主人公は小津のことを最悪の友人として認識していました。
    この認識は物語の終盤になって、一転します。

    小津こそが最高の悪友である。
    孤独なループ空間のなかで、主人公はそう考えるに至ったのです。
    そして、これらの主人公の認識は小津の姿を変える決定的な体験となるのです。

    四畳半神話大系の語り手(視点)は主人公。
    その主人公の認識(フィルター)が変わったことにより、小津の視え方が変わったのです。
    主人公の認識と出来事の混同は、作者の森見登美彦さんのインタビューでも触れられているので、興味のある人はどうぞ。リンクもここに貼っておきます
    ...僕の小説の書き方に近いのは「四畳半」だと思うんです。
    (中略)
    「四畳半」のほうは、主人公の心の中の出来事と実際に起こっている出来事が全部一緒くたに区別なく、アニメーションという表現で描かれているという感じがしていて。それは僕の小説で、主人公の思いも起こっている出来事も、文章によって全部ひと続きで一緒くたに語られてしまうこととよく似ていると思うんです。

    改めて主人公の顔を見てみよう

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    同じ記事に、同じ画像を3回も貼っていると心が荒んできそうです。
    あと、ちょっと殴りたい顔してますよね。

    「俺なりの愛だ」
    そう語る主人公の顔は、誰かに似ていますね。

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    小津Before!
    そうです妖怪として見ていた頃の小津にそっくりなんです。

    なぜ小津の顔をしているのか

    ここからが話が小難しくなってきます。
    また、ここから先はオタクの勇み足ともいえる理論展開が始まります。



    ご勘弁ください(´;ω;`)



    話を戻すと、考えられる主人公の顔の意図(があるとして)は以下の通り

    ①小津の真似をしているから(「僕なりの愛ですよ」は小津の決め台詞だった)
    ②主人公が自分自身への認識を変えた(自分が小津と同類であると認識したから)
    主人公以外の視点だったから

    (もしかしたら、まだあるかも。詳しい人がいたら、@1i2ro3haに教えてください)

    細かな理由付けは割愛しますが、僕はだったら面白い(≠正しい)なと考えています。

    「主人公以外の視点だった」とするなら



    こう考えた場合、主人公の顔は視点が移り変わった誰かの認識だったとつなげられます。

    素直に考えれば主人公を奇異の目で見た小津の視点だったと考えるべきでしょうか。
    しかし、例のシーンにはもうひとつ視点の持ち主が存在したのではないでしょうか。

    もしかして視聴者の視点でもあったのでは

    最後の主人公の顔をみていたのは、実は視聴者の視点だったのかもしれません。
    Dr.スランプ アラレちゃん 第57話 夢のみにちゅあわが家

    ループ空間(IFの様々な世界)の物語を見ることによって、
    読み手はすでに主人公よりもひとつ上の目線から物事をみれるようになっているわけです。

    主人公と読み手を同調させて、最後に切り離す

    ここまでの妄想考察をまとめると、四畳半神話大系の最終話では語り手(主人公)の視点から離される表現が隠されていたと読み取る余地があります。

    この手法は砕けた言い方をしてしまえば、
    「主人公(語り手)と読み手の意識を同調させておいて、最後にそこから切り離す」という手法です。

    この手法ってRPGでもつかえるんじゃね?

    RPGは簡単にいえば、プレイヤーに操作キャラを通して物語を体験させるゲームジャンルです。
    だとしたら、これってRPGでも似たようなことできますよね。
    実際、結構古いRPGでも、同じようなことをやっている作品は存在したりするわけで。

    しかし、待てよ…?
    RPGでできるなら、TRPGでも…!?

    思わせぶりなことを言って、今回の記事は終わりとします。
    乱文失礼しましたm( _ _ )m

     シナリオを書かせていただいている生姜維新です。好きなクトゥルフ神話TRPGのサプリメントは『比叡山炎上』です。
     サークル内でブログを書くのが流行っているので、私もTRPGについて少し書いてみようと思います。
     今回扱うのは、『クトゥルフ神話TRPG』(以下『CoC』)の、過去の時代を扱った「歴史モノ」のシナリオについてです。『CoC』が現代日本シナリオを中心に流行して久しいですが、「歴史モノだって面白い!」という事が伝われば幸いです。
     遊ぶ前の心構えについては、なんとかかんとか氏がいい事を書いていらっしゃったので、まずこちらをご覧いただいてから読み進めてくださればと思います。

    既存の歴史を扱ったサプリメント

     皆さんご存知のように、既にクトゥルフ神話TRPGにはサプリメントとして過去の時代を扱ったものが多数存在します。
     中世ヨーロッパを扱った『ダークエイジ』、戦国日本を扱った『比叡山炎上』、ヴィクトリア朝の『ガスライト』、大正日本の『帝国』、『フラグメント』掲載の幕末や古代ギリシャ、その他古代ローマや世界大戦を扱った未訳サプリ群……
     そもそも基本ルールブックで1890年代や1920年代を遊べる時点で、最初から歴史を扱っているとも言えます。
     
     このように既に様々な時代が扱われているわけですが、「歴史」はコンテンツが無尽蔵に眠る金山であり、まだまだ未開拓の領域が残されています。歴史上のあらゆる現象をクトゥルフ神話的世界観で解釈し、『CoC』の舞台として遊べる事ができれば……
     そう思ったので、『CoC』と歴史モノの関係について分析し、「歴史上の舞台を『CoC』で扱うための文法」を考えてみます。これを読めば誰でもあらゆる時代をクトゥルフ神話の世界にできる!かも!
     

    『CoC』と歴史モノの親和性

     上で挙げたように様々な時代を扱ったサプリメントが既にあるわけですが、これ自体も稀有な現象だと思っています。何がこのような事を可能にしているのでしょうか。

    伝奇ロマンというジャンル
    ~クトゥルフの触手で歴史への固定観念を破壊せよ~

     「あの歴史上の事件の裏には実はこんな真実が」「この歴史をそう解釈するのか」「歴史上の有名人がなんか超常の力を使って人外と戦ってる」といった驚きを与えてくれる作品のジャンルを「伝奇ロマン」と言うそうです(出典ウィキペディア)
     伝奇ロマンの面白さは「歴史に対する固定観念をSF・ファンタジー的な要素で破壊されるカタルシス」が大きいと思いますが、クトゥルフ神話という概念はフィクションの中でもかなり異質で強力な概念であり、固定観念を粉々に破壊してくる……この要素が洋の東西問わずクトゥルフで歴史モノが扱われている大きな理由の一つだと勝手に思っています。

     ちなみにクトゥルフ神話がいい感じで化学反応を起こしている伝奇ロマン(?)としては『伴天連XX』辺りが思いつきます。江戸時代を舞台にしたクトゥルフ神話×異能バトルというジャンルで『CoC』とはちょっと雰囲気が違いますが、「クトゥルフ神話で固定観念を破壊する」という点は共通していると思います。
     http://iharadaisuke.hatenablog.com/entry/2014/03/28/121545 
     クトゥルフ神話のパワーワードと時代劇風の絵柄の圧

     しかし、これは逆に言えば「壊されるべき固定観念」が無ければカタルシスは半減してしまうという事です。だから、既存のサプリメントではメジャーどころの時代・舞台だけが扱われているわけですね。
     「織田信長は狂信者!安土城は実は邪神を召喚するための祭壇!」「内ヶ島氏理は狂信者!帰雲城は邪神によって滅ぼされた!」では、前提知識が無くて面白さが通じない恐れが段違いです(実際、後者のシナリオを昔作って数回やりましたが、ネタが分かっていたプレイヤーは0名でした)

    ゲームシステム ~色んな角度から歴史を体験する~

     様々な時代を大きな改変なしで処理できてしまう『CoC』のゲームシステムにはどのような特徴があるのでしょうか。

    ▼探索者という存在 ~歴史上のキャラクターをデータで表現する~
     私の好きなテーマの1つですが、探索者とは一体どのような存在なのでしょうか。色んな考え方があると思いますが、私が今回強調したいのは

    ・誰でも成り得る存在である
    ・ルールによって能力値・技能・職業等によって詳細な設定が可能
    ・超常の力を持たない
    ・宇宙的恐怖と対面するなどして正気を失っていく

    という点です。

     「誰でも成り得る存在である」という事が特に重要で、例えば冒険者をやるゲームであればPCは基本的に「一定の戦闘能力を有し冒険者を自称して活動するキャラクター」でなければならないのですが、探索者は「事件の場にたまたま居合わせて巻き込まれた一般人」等が許容されるのです。むしろ一般人であった方が「日常=正気と非日常=狂気のギャップによる正気度喪失」が表現しやすいので美味しいです。
     これにより、歴史上の様々な層の人間を主役として演じる事が可能なのが『CoC』です。武人などに限りません。

     そして、その様々な層のキャラクターを詳細に決定できるルールもキャラクター表現の幅を広げてくれます。クトゥルフのステータスは「何が得意」に留まらず、「この技能/能力値は他のものに比べてどれくらい高い/低い」という相対的な評価が可能なので、過去の時代の人々がどんな生活をしていたのか想像しながら細かくキャラクターを考える事ができます。
     
     探索者の能力値は時代に関係なく3~18程度の幅を取り、思考系など一部の専門的な技能やターム以外をほとんど変更する必要が無いという点でも優れています。人類のスペック自体はあんまり進化していないぞ!

     人類が進化していないおかげで、健全な人類の探索者は超常の力を持っていたりしません。これによって、危険に満ちていた過去の時代の人物を演じるにあたっての心構えとしてもメタ的なプレイ感覚としても「身を守る術をほとんど持たないただの人間が、自然・超自然の危険が存在しうる世界を探索している」という不安感を体験できます。
     むしろ、過去の時代を舞台にする事で、「現代人のような知識や技術を持っていない状態で邪神勢力と対峙しなければならない」という状況が生じるのがホラー的に美味しい所です。
     ※現代人と根本的に違う生物である『比叡山炎上』の探索者を除く。

     異能を使う歴史モノはそれはそれで楽しいのですけどね。『天下繚乱』とか。
     
     「正気度喪失」も重要な要素です。探索者は戦闘で敵を倒す存在ではなく、探索によって得た魔術で敵を封じる存在でもなく、「宇宙的恐怖を目の当たりにして正気を失いつつも、それに対峙・対処する存在(結果として物理的に倒したり封印したりはする)(成功・生還できるとは言ってない)」だと私は思うのですが、これが歴史モノのシナリオに「チャンバラに頼りきらない」「戦闘力だけが評価されない」多様性をもたらすと確信しています。
     

     以上のメリットは、プレイヤーが舞台や探索者をうまく想像し、演じられる事を前提としています。歴史モノを遊ぶためには、何も言わなくても大体想像できてしまう現代日本以上に、時代背景や舞台や生活などについて、探索者創造の段階から配慮が必要でしょう。
     ここで言う時代背景・舞台・生活などについては、「KPの考える、シナリオにとって都合の良い解釈」である事が第一で、歴史的な正しさの優先順位はその一つ下でいいでしょう。もちろん、何かしらの資料をもって解釈に最低限説得力を持たせた方が良いのは確かです。

    ▼シナリオ傾向 ~シティシナリオで歴史を体験~
     『CoC』は色んな遊び方をされていますし、そこに正解なんて無いのですが、あえて『CoC』のシナリオ傾向の話をします。

     まず前提として、『CoC』の探索者の技能は大半が戦闘以外の探索に用いる技能です。戦闘に重きを置く作品の特技の割合が戦闘9に対して探索1くらいである事を考えれば、『CoC』がゲームデザインとして探索に重きを置いていると言えるでしょう。
     
     歴史モノの魅力をより深く味わうためには、探索者にその時代に暮らす人々と交流させたり、その時代に特徴的な施設・サービス・物品を利用させ、舞台との一体感を出す必要があります。そのために最も役立つのがシティシナリオにおける「(足を使った)情報収集」です。他にも「物品の調達」「NPCの説得」等々。
     プレイヤーはシナリオクリアという目的に向かって情報収集するモチベーションが発生するので、能動的にシナリオの舞台に絡んでいくわけです。
     ここまでは「他のシステムでもそうだろ!」という話なのですが、『CoC』の特徴たる「情報収集に使用できる技能の多様さ」がここで活きてきて、色んな方法で絡んでいけるわけです。酒場の人間から情報を引き出すだけでも、〈説得〉してもいい、〈言いくるめ〉てもいい、〈信用〉を武器にしてもいい、APPや所持金を使ってもいい、探索者によって色んな方法があるわけです。その血の通った、作業的画一的ではない判定がシナリオ・歴史をより楽しませてくれるのです。
     
     そして、「戦闘に頼らない、戦闘したら負け」という概念も『CoC』の中では根強いのですが、これは今回半分ほど適切ではありません。
     確かに正気度というリソースの減少によってセッションを盛り上げる事ができる『CoC』では必ずしも戦闘は必須では無いですし、戦闘したらHP10程度の所にd6やd10のダメージが飛んでくるのでまぁ死ねます。
     時代劇=チャンバラという固定観念に縛られないのは歴史モノにクトゥルフを用いるにあたって重要な要素だとは思います。
     
     しかし、あえて現代日本と違う戦闘が身近な時代を選択している以上、戦闘が楽しめなければ差別化が弱いと思います。歴史モノやる人のモチベーションの大部分が「武器を大っぴらに使えるぞ」とかだったりするので……(『比叡山炎上』を見ながら)
     なので、戦闘パートは少なくとも一回は用意してあげたいところです。もちろん大物の神話生物に剣や銃で立ち向かったら死にますけど(『比叡山炎上』を除く)
     戦闘という10秒程度毎のミクロな動作を扱うのは歴史体験としてもキャラクターのロールプレイとしても非常に重要なのは言うまでもありません。

     要するに「シティ要素も戦闘も全部揃ったシナリオをやれば歴史を深く体験できて楽しい」という当たり前で難しい話になるんですが、まぁ、そこは、シナリオ作る側が自分の好きな時代についてあれこれ考えながら準備する過程を楽しみましょうという事で。

    既存サプリメントの工夫 ~三者三様~

     基本ルールがほとんど流用されてると言いましたが、それだけでは不可能ではないにせよやっぱり各時代を楽しむには不足です。扱っている時代、テーマによってルールを適宜変更しなければならない、と私は思うので、まずは既存サプリメントの行っている工夫について手持ちの『ダークエイジ』『比叡山炎上』『ガスライト』について簡単に分析してみます。
     これらの共通点・相違点から文法を発見できれば、各時代のシナリオ一本に対応したルール程度なら誰でも作れるようになれると思います。

    ▼ダークエイジ
     中世初期のヨーロッパを舞台にした『ダークエイジ』はその名の通り、イントロダクションの「恐怖によるゲーム進行」に書かれているようなゲームデザイナーの志向と10世紀頃という時代もあって、探索者の無力感が強調されています。それが、タイトル通り暗闇の中を手探りで進むような恐怖感を味わわせてくれます。

    ・技能
     技能は〈三科〉〈四科〉〈神学〉あたりが珍しいですが、現代日本人が遊ぶにはちょっと分かりにくいかもしれません。筆記が技能になっている、低い他国知識/高い母国知識で地域共同体に縛られた生活を表現している辺りは時代をよく反映している気がします。
     一部職業は技能ポイントを使用して呪文を取れるので、戦闘に偏って組めば無力感なんてどこ吹く風の悪い事も色々できます。《肉体の保護》を最初から取れてしまうのはバランスが崩壊するからやめてほしい。

    ・戦闘
     戦闘を前提としているため専用のルールが一応ありますが、少々ややこしい。
     攻城兵器のデータなども載っています。あと、戦闘ではありませんが当時の病気についても詳しく、参考になります。
     なぜかダークエイジの探索者は特定条件を満たす事で〈蹴り〉を1ラウンドに2回行えるのですが、これは中世の何を反映しているのか不明。〈マーシャルアーツ〉不在のバランス調整か?

    ・世界観解説
     修道士・農民・領主の生活・服装・食事について書かれているのは良い。しかし扱う世界が広いため個別地域については薄め。スラブ圏やアラブ圏まで載っています。キリスト教徒ではない日本人としては、当時の宗教観や宗教活動がもうちょっと知りたかった。

    ・サンプルシナリオ
     修道士と共にマジャール人を改宗させるための旅をしていた探索者たちが、立ち寄ったゲルマン人入植地で色々するシナリオ「墓所」が掲載されています。舞台に関する設定・解説・描写が極めて詳細で、全部で45ページもあります。
     ヨーロッパがまだ森に覆われていた時代の、「入植地」「マジャール人」「異教」「森」といった未開の土地の要素が詳細な描写によって活きていて、『ダークエイジ』の著者が想定する遊び方が窺えます。


    ▼比叡山炎上
     純和製サプリメント。データ・ルール面の工夫が多く、術や〈修羅〉による派手な戦闘が目玉。採用すると神話生物すら刀の錆になります。よくイロモノ扱いされるが、イロモノとしてはとても面白いので一読・購入の価値はあります。ちなみに私が初めて買って回したルルブはこれだぞ!

    ・探索者の創造
     そもそも能力値のダイスが4d振って3dチョイスの時点で「今回は超人をやります」とシステムが言っているのが伝わってきます。
     末尾にサンプルキャラクターも載っていますが、最大能力値18がデフォの修羅揃いです。
     職業にはそれぞれ初期の所持品が設定されているのですが、これは当時の人間の持ち物を考える大変さが軽減されるので結構な発明だと思います。「持ち物:足軽」は処理に困るけど。
     
    ・術
     技能ポイントと引き換えに取れて、MPや正気度を代償にして使います。剣術等の他に忍術や仏教・基督教・神道、そして自分が異形になる、など様々。強すぎるのはともかく、「具体的にどうなるのか不明」「武器毎の格差が激しい」という問題はある。処理はKPのアドリブ力が試されます。

    ・技能
     〈クトゥルフ神話〉が〈黒智〉となっており、南蛮っぽさが消えています。
     〈黒智〉と同じく最大正気度を蝕む〈修羅〉が追加されており、「即死による行動不能のリスク軽減」、「当時の戦士の人外感の表現」といった効果を発揮しています。
     技能初期値の計算なども細かく手が加わっていて、APPがそれなりに役立ちます。
     〈回避〉が技能ではなく副能力値になっているのも面白い点です。
     
    ・戦闘ルール
     色々変更があるほか、一応集団戦ルールなるものも存在します。馬に乗った際の補正も載っています。
     回避副能力値化前提回避回数無制限化(長い)は良いと思うが、受け流しも無限な所にちょっと穴がある気がしなくもない。

    ・世界観解説
     戦国時代のマクロな解説(主に信長)に偏っており、サンプルシナリオもそういう話なので、タイトル通り信長絡みのシナリオを遊んでもらう事を想定している気がします。
     クトゥルフ神話の神格・クリーチャーの項目で、彼らが戦国日本でどう呼ばれ、扱われているかが解説されているのが面白く、歴史とクトゥルフを絡める時の発想の参考になります。例えばクトゥルフは「九頭竜明神」と呼ばれ、八岐大蛇や竜宮伝説と繋げて解釈されている、など。
     
    ・サンプルシナリオ
     信長の配下として色々調査したりするキャンペーンシナリオが載っています。歴史上の有名人や神話生物が怒涛のように現れる色んな意味ですごいシナリオ。
     『比叡山炎上』の想定する遊び方が窺えます。
    ▼ガスライト
     『ガスライト』はロンドンという一都市を主に扱っているのが大きな特徴です。そのため、時代背景の解説が非常に詳細で、「フィクションのNPC」まで詳しく紹介されています。
     シナリオと時代背景にほとんどページが割かれていますが、ゲーム的にもランダム表の利用を重視しているのが面白い点です。

    ・探索者
     時代を反映した社会階級というステータスがあり、交渉や収入に関わってきます。
     探索者の能力や設定に大きく関わる特徴表というルールがあり、他の時代でも利用できて面白い。
     能力値ロールの結果を後から好きな能力値に割り振るのが前提であったり、特徴があったり、職業技能が雑に強かったりする(ディレッタントお前だ)ので、探索者は強め。

    ・その他ルール
     時代が基本ルールブックと重なるため、変更はほぼ無い。

    ・サンプルシナリオ
     三本のシナリオが掲載されているが、全て「何らかの事件を調査するように依頼される」という導入で始まり、うち一本はシャーロック・ホームズからの依頼というホットスタートです。『ガスライト』が想定している遊び方が窺えます。


    まとめ

     以上です。マスタリング時に注意すべき点は今回書いていませんが、それでも『CoC』で歴史モノを遊ぶうえでどのような点に気を付けるべきか見えてきたと思います。
     次回は実際に既存のサプリメントで扱われていない過去の時代「大航海時代」を扱ったシナリオと専用の簡単なルールを作って、作る過程と遊んでみた結果を報告したいと思います。


    筆者:生姜維新/生姜シュライン
    九頭竜堂のシナリオライター。月ノ書から参加。
    「かぐや姫の憂鬱」「ユキユキテ」「灰色の少女たち ~Fleurs Grises~」「ダイス&ドリームス」
    経験してきたセッション、持ってるルルブ、そしてTRPGの表現力を信じて、TRPGであんまり無さそうな題材に挑戦し続けたいと思います。
    TwitterたまにTRPGの話をする方→ https://twitter.com/pueraria_ginger
         アイカツと百合とソシャゲの話をする方→ https://twitter.com/gin_res


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